本記事では、企業の成長可能性を適正に評価する事業性評価のポイントをはじめ、担保・保証に依存しない融資の推進、さらには経営課題解決に向けた金融機関の実践的な支援アプローチについて分かりやすくまとめています。
こんにちは。ブランドグロースパートナーROOTWITHの本田です。「ブランディング」という一見すると定性的な取り組みが、最終的に企業の本当の価値(企業価値)へ結びつくと信じ、多くのベンチャー・中小企業の支援を行ってきました。
2026年5月25日の「事業性融資の推進等に関する法律」施行に合わせ、金融庁は事前に行われたパブリック・コメント(14件の意見)の結果とともに、金融実務の新たな指針となる「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」を正式公表しました。あわせて「主要行等向け」および「中小・地域金融機関向け」の総合的な監督指針も改定されています。
この一連の動きの中で、行政・金融当局が繰り返し強調しているのが「事業者と金融機関との間の継続的なコミュニケーション(対話)と信頼関係」という言葉です。
しかし、多忙な経営者やCFOの視点から見れば、現状では
「対話と言われても、結局は毎月の試算表や決算書を出せと言われるだけではないのか?」
「銀行が本当に知りたい『継続的対話』の中身とは何なのか?」
ということになるでしょう。
なぜ「一時点の審査」から「期中の継続的対話」へシフトしたのか
金融庁が公表した「基本的な考え方」の核にあるのは、「どれほど高度な審査を行っても、時代の変化とともに事業計画と将来の実態に乖離が生じるのは避けられない」という現実的な前提です。
従来の金融実務では、融資を実行する「一時点(決算時や融資審査時)」において、過去の財務諸表(バランスシートや損益計算書)と不動産担保の有無が過剰に重視されてきました。その結果、融資実行後は形式的な返済確認にとどまり、業績悪化の兆候(予兆)が見逃され、深刻な窮境に陥ってから返済猶予や債権回収が議論されるという悪循環が存在していたのです。
今回の基本方針では、融資のプロセスを以下の4つのフェーズに分け、平時からの絶え間ない対話(リレーションシップ)を求めています。
- 初期審査時
事業の将来見通しや資金使途について相互に認識を共有し、業況悪化時の判断基準について事前に目線をあわせる。 - 平時
事業計画の進捗状況や定性的な変化について、定期的に情報共有と意思疎通を図る。 - 悪化兆候確認時
深刻な延滞に至る前に早期に課題を特定し、事業計画の見直しを含む経営改善を協議する。 - 窮境時
専門部署を中心に、事業継続と企業価値の維持を最優先とした再生手続や支援策を講じる。
つまり、企業価値担保権という法的な基盤を背景に、銀行は「融資して終わり」ではなく、「事業の将来性を維持・向上させるための長期伴走者」へと役割を再定義されたのです。
赤字・債務超過でもいい? 債務者区分・格付への「事業の将来性」反映
経営者にとって最も重要なインパクトは、金融機関の自己査定における「債務者区分や格付の決定ロジック」が変わった点です。
これまでは、表面上の決算書が赤字であったり債務超過であったりすると、形式的に「破綻懸念先」や「要注意先」に割り振られ、金融機関側も機械的に引当金を積まざるを得ませんでした。そのため、追加融資や前向きな事業投資資金の供給がストップしてしまう構造があったのです。
しかし、金融庁の基本方針および監督指針の改定により、企業価値担保権を設定した融資においては、以下の原則が明記されました。
- 過去の財務数値・清算価値に囚われない評価
企業価値担保権という確かな法的基盤のもとでは、赤字や債務超過といった過去の指標だけでなく、将来のキャッシュフロー創出能力や定性情報を合理的に考慮して格付・債務者区分を判定することが認められる。 - 非財務コベナンツの役割
情報提供義務や通知義務といった「事業性融資コベナンツ」を設定することで、業況悪化の予兆をタイムリーに検知(予防的アラート)。コベナンツ抵触=即デフォルトではなく、「対話を始める契機」として機能させる。
これにより、銀行員は「過去の決算書は厳しいが、事業の強みや顧客基盤、経営者の改善意欲が確認できるため、正常先・要注意先として評価し融資を継続する」という合理的な稟議を本部に通せるようになったのです。
金融庁指針が示す「銀行が求める定性情報」
ここで多くの経営者が誤解しがちなのが、「銀行に定性情報を伝える」=「将来の夢やビジョンをプレゼンする」ということではない、という点です。
ITスタートアップがVC(ベンチャーキャピタル)から出資を受ける際のピッチと、銀行から事業性融資を引き出す際の対話では、求められる定性情報の質が決定的に異なります。
- VCが求める定性評価
創業者のカリスマ性、市場の爆発的成長性、スケールする未来の「アップサイド(可能性)」 - 銀行が求める定性評価
事業の継続性、組織としての再現性、景気変動(ダウンサイド)への対応力と「返済の確実性(キャッシュフロー)」
金融庁が「業種別支援の着眼点」などで例示している銀行員向けの確認ポイントも、まさにこの「再現性とリスク対応力」に集約されています。
具体的には、
「経営者不在でも現場が回る業務フローやマニュアルがあるか(ヒトの状況)」
「顧客から選ばれ続けている定性的な理由やリピートログがあるか(売上見通しの基礎)」
「過去の危機や原材料高騰をどのような意思決定で乗り越えてきたか(経営者の資質・対応力)」
といった事実の集積こそが、銀行の審査部を動かす定性データなのです。
銀行員を味方につける「定性データの資産化」3ステップ
銀行員が営業店から本部審査部へ稟議書を提出する際、口頭の印象論だけでは稟議を通せません。しかし、2026年現在、企業価値担保権における定性評価の統一申請フォーマットは存在しません。
だからこそ、日頃から経営者の頭の中や現場に散在している「事業の記憶」を構造化し、ポータル(データベース)として蓄積できている企業が、圧倒的な先行利益を得ることができます。
ROOTWITHでは、自社の定性情報を金融機関から評価される資産へ変えるための3ステップを提唱しています。
- ステップ1:経営者の脳内にある「ルーツと文脈」の言語化
「なぜこの事業を行うのか」「過去の最大の葛藤と経営判断の理由」といった一次情報をインタビュー形式で抽出。表面的な集客テクニックではなく、自社の根幹(ルーツ)を言語化します。 - ステップ2:現場知見と顧客対話のデータ化(外部記憶システム)
日々のミーティング議事録、顧客からのフィードバック、現場の業務ノウハウ、トラブル対応の記録を専用ポータルへ自動的に集約・構造化します。 - ステップ3:金融機関が理解できる「共通言語」への変換
集約された定性データを、銀行の融資担当者や審査部がそのまま稟議書に転記できる構造(事業計画の達成可能性やリスク管理の文脈)に再整理し、定期的な対話ツールとして提示します。
企業価値担保権は、挑戦できる権利
金融庁が公表したパブリック・コメント結果と「基本的な考え方」は、日本の金融が「決算書・不動産担保主義」から「事業者との信頼関係・定性評価主義」へと歴史的に転換したことを示す決定的な証拠です。
過去の財務数字や不動産担保の有無にかかわらず、自社が積み重ねてきた歴史、現場のノウハウ、そして顧客と築いてきた信頼関係を客観的なデータとして語ることができれば、銀行は最大の伴走者へと変わります。
単なる数値合わせの経営に走るのを一度止め、自社の根幹にある「事業の記憶」に向き合ってみませんか?
ROOTWITHは、企業の歴史に寄り添う伴走者として、貴社の「事業の記憶」を資産へ変えるお手伝いをしています。
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