かつてスタートアップが投資家から「未来への賭け」として評価を受けていたように、2026年施行の企業価値担保権によって、一般中小企業でも定性データや将来性に基づく融資が受けられる時代になりました。しかし、いくら定性的なブランド価値であっても、第三者である銀行審査部が納得できる「客観的なデータ」として構造化されていなければ意味がありません。ブランド支援のROOTWITHがなぜ、企業価値担保権という仕組みに着目しているかをまとめました。
こんにちは、ブランドグロースパートナーROOTWITHの本田です。「ブランディング」という一見すると定性的な取り組みが、最終的に企業の本当の価値(企業価値)へ結びつくと信じ、多くのベンチャー・中小企業の支援を行ってきました。
長年、ビジネスの現場で「ブランディング」という言葉は、大きく誤解され続けてきました。
「ブランディングは要するに、商品をバズらせて売るためのマーケティング手法のひとつ」
「ロゴやWEBサイトで認知度を上げる広告施策のひとつ」
多くの経営者と対話する中で、何度この言葉を耳にしてきたか分かりません。ブランディングが「単にモノを売るためのテクニック」や「短期的な販促の手段」として、マーケティングと同義に扱われ消費されていく状況に、私は大きな危機感を抱いていました。
しかし、2026年5月25日、「事業性融資の推進等に関する法律」に基づく「企業価値担保権」が本格施行されたことで、日本のブランディングの価値は、やっと元の場所へ戻り始めようとしています。
「マーケティング(売るための技術)」と「ブランディング(法人の本質的な価値の探求)」は全くの別物であり、今から国や金融機関が評価しようとしているのは後者になるという流れが生まれつつあるからです。
本記事では、なぜ今「法人の本質」に価値が宿る時代が来たのか、金融庁が公表した公式指針や事実情報を参考にしながら、ブランディングの役割と、ブランドを資産化する具体策を解説します。
「売るための施策」でなければ、受け入れられにくかった
なぜ、これほどまでにブランディングは誤解され、正しく評価されてこなかったのでしょうか。 その最大の理由は、「ブランディング」という存在があまりにも抽象的で、短期的な数字(決算書)として見えにくかったことにあります。
日々の資金繰りや売上目標、現場の成果に追われる経営者にとって、目に見えない「ブランド価値」や「思想の言語化」投資は、どうしても優先順位が下がります。「で、それをやって今月の売上はいくら上がるの?」という問いに対して、従来のブランディングは明確な定量的回答を提示しづらかったのです。
それは皮肉な結果を生みました。ブランディングを提案するクリエイターやコンサルタントといった「作る側の人間」までもが、案件獲得やクライアントからの評価を求め、マーケティングと混同させるような売り方をすることが増えていたのです。
「強いブランドを作れば、商品が売れますよ」
「ブランディングは、集客やマーケティングの強力な武器になります」
本来、企業のアイデンティティ(根幹)を見つけ、価値化をするはずの作り手が、手っ取り早く評価される「数字の結果」におもねり、ブランディングを単なる売上アップの販促ツールとして矮小化して売り込むことが増えてしまった。
「抽象的な価値を説明しきる覚悟」を捨て、マーケティングという分かりやすい言葉に安易に寄せてしまったことで、ブランディングは「バズらせるため、売るための何か」へと成り下がってしまいました。
私はこの現状に危機感を抱いていました。 企業ブランディングとは、「商品を売るためのテクニック」ではなく、創業者がどんな思想で立ち上がり、どんな決断を経て今に至るのかという「歴史と意思決定の文脈」そのものを捉え、会社の存続を支える経営資産としてどう扱うかを考え続けることだ、と認識しているからです。
マーケティングと領域を分けるからこそ双方にシナジーが生まれるのに、混同させてしまうことで「企業のルーツ」という最も価値のある部分が、短期的な市場の評価に飲み込まれ、ゆがめられていく可能性があるからです。
お伝えしておきたいのは、私は「ブランディングは売り上げに関係ない」などとは決して思っていないということです。正しくブランドをつくれば、会社の価値は上がります。結果的に、長期的なファンを生み、たとえ現在の主力商品が売れない時代になったとしても「あの会社なら次の商品も面白いはずだ」と市場に期待してもらえる、本当の意味で「強い会社」になれるはずだと確信しています。
だからこそ、数字や短期的な結果が必要な部分については「マーケティング」という手法を信頼して任せ、その下支えをする「強いブランド」の構築は、別視点で取り組む方がいい。そう考えて仕事をしてきました。
企業価値担保権は大きな転換点
この構造に強烈な一石を投じたのが、2026年本格施行の企業価値担保権です。
カンタンにまとめると、不動産や売掛金だけでなく、ブランド、ノウハウ、顧客基盤、知的財産など事業全体が生み出す価値を一体で捉え、担保とできる権利です。これまでの、不動産担保や経営者保証(個人保証)に過度に依存した融資慣行からの脱却を目指しています。
金融庁が公表した「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」や、法第7条第1項の条文を紐解くと、担保の目的について明確な定義がなされています。
保全の対象は、不動産や機械といった個別の有形資産ではなく、「のれんやノウハウ等の無形資産を含む、将来において会社の財産に属するもの(会社の総財産)」です。
金融庁が「業種別支援の着眼点」や公式Q&A(質問集)の中で、金融機関に確認するよう求めている「定性情報」の具体項目をご覧ください。
- 経営者の資質・能力
経営判断の一貫性、信頼性、過去の不況や危機を乗り越えた意思決定の歴史 - 「ヒト」の状況と組織力
キーパーソンのスキル、離職率、経営者不在でも現場が回る業務マニュアルやオペレーションの再現性 - 売上・費用見通しを基礎づける定性事情
一過性の売上ではなく、特定顧客・取引先から選ばれ続けている理由、契約継続の可能性、独自技術や仕入れルート
これらは私がブランディング支援の中でヒアリングし、言語化のプロセスで重要視してきた項目とかなり近しい内容になっており、正直驚きました。
現場を支える社員や、創業時のエピソードから回収できる「お金を積んでも再現できない記憶」、顧客の声から抽出できる「ブランドの強みと提供根拠」などは、私の行うブランド構築支援の重要なファクターでありつつ、経営者が求める定量的な価値とは遠いところで扱われることに「仕方ない」と感じていたからです。
しかし2026年、金融庁は「マーケティングで一時的に売上を作っても、法人の本質(ブランド)が強くなければ将来の持続的なキャッシュフローは生まれない。過去の赤字や債務超過にとらわれず、法人の本質と事業の将来性を見極めて正常先・要注意先として評価しなさい」と、全国の金融機関へ明確な指示を出した、ということです。
ブランディングという、企業の抽象的な面にフォーカスした活動が、企業価値という「経営において重要な指標」に直結することを、国が指針として公表した。これは、ブランディングという領域で仕事をする人間にとって、大きな転換点です。
そもそも、企業価値とは
そもそも、金融や投資の世界における「企業価値」とは、いわば『その会社につけられた値札』のことです。
「この会社は素晴らしい」「良い企業だ」という感情論ではなく、「今この会社を丸ごと買うとしたら、いくらの値打ちがあるか?」を客観的な数字にしたものが企業価値でした。
しかし、まだ売上すら立っていない創業期のスタートアップの世界では、この「値札の付け方」には独自ルールが存在していました。直近の決算書に数字がない以上、過去のデータでは測れません。だからこそ、VCや投資家たちは、「経営者の質」「技術やプロダクトの革新性」「顧客基盤のストック性」といった定性データから、将来の爆発的な成長可能性を予測し、いわば『未来への賭け』も含めて企業価値(値札)を計測してきたのです。
そして2026年、企業価値担保権の本格施行によって、この『将来性や定性データから企業の本当の価値を割り出す』という思想が、ついに一般の中小企業やベンチャーのデット(融資)の世界にも適用され始めています。
「過去の決算書の数字」や「不動産の有無」だけで会社の値札が決まる時代は終わりました。
自社が積み上げてきた技術、顧客との信頼関係、現場のオペレーションノウハウ——。それら目に見えない「事業の記憶」をデータとして構造化し、証明できさえすれば、すべての企業が「未来の価値」を担保に成長資金を引き出せる時代になったということでしょう。
これからの経営のふたつの柱
だからこそ、これからの経営において、私たちはふたつの大きな柱を同時に立てていかなければならなくなりました。
ひとつは、顧客数、LTV、解約率などの実数字や、そもそもの事業計画書といった、これまで通りの「定量的な指標(数字データ)」という柱。
そしてもうひとつが、私たちブランドづくりの人間が一貫して提唱してきた『ブランドという定性的な要素の積み上げ』という、不可欠な柱です。
「なぜ自社が選ばれているのか」
「現場のオペレーションにどんなノウハウや再現性が宿っているか」
「トラブルや市場の変化に、経営陣がどう判断し立ち向かってきたか」
こうした会社の歴史、思想、強みが未来のキャッシュフローを生み出す源泉であると国が認めたことで、金融機関と経営者にも意識変化が迫られています。
ここで絶対に誤解してはならない重要なポイントがあります。
いくら「定性データや事業の将来性を評価していい」時代になったとはいえ、『客観視できない定性価値』は、金融の現場では1円の価値も持ち得ないということです。
経営者の頭の中だけに存在する熱意や、社内だけで共有されている「うちの強み」は、第三者である銀行員や審査部から見れば、単なる主観であり「評価不能なポエム」に過ぎません。
「定性的で良い」ということと、「感覚的で良い」ということは全く違います。
定性的なブランド価値だからこそ、それをテキストや対話ログ、構造化されたデータとして可視化し、「銀行員がそのまま審査部向けの稟議書に転記できる客観的エビデンス」へと転換させなければ、何も前には進まないのです。
表層的なデザインやプロモーションという「売るためのテクニック」で終わらせるのか。 それとも、自社の本質である「事業の記憶」を客観データとして蓄積し、正当な企業価値(資金枠)に変えていくのか。
2026年、企業価値担保権という新時代の到来によって、経営者の「ブランディングへの向き合い方」そのものが試されています。だからこそ、ROOTWITHでは日々の経営対話、意思決定の文脈、顧客とのやり取り、現場のノウハウといった「事業の記憶」を専用ポータル上にデータとして蓄積し、客観的に可視化するインフラ構築を支援しています。
事業の記憶が、正当に評価される社会へ
ROOTWITHが提供しているのは、単なるWebポータルのシステムでも、表面的なブランディングのデザインでもありません。
目指しているのは、「企業が積み重ねてきた努力、思想、現場の知恵といった『事業の記憶』が、正当に評価され、次の成長へと還元される社会をつくる」ことです。
これまでの日本において、目に見えないブランドや定性的な強みは「決算書に載らないもの」として軽視されてきました。経営者がどれほど熱い想いで現場を動かし、素晴らしい文化を育んでいても、過去の数字や不動産担保がなければ融資を断られてしまう。また、いくらブランディングの必要性を語っても、会社の成長に直結しない「サブ施策」とされてしまう。この構造を、変えたかったのです。
現在、ROOTWITHでは経営対話のログ、意思決定の文脈、現場に眠る暗黙知やノウハウをAIで客観データとして自動抽出・構造化し、銀行の審査部がそのまま評価できる「エビデンス(証拠)」へ転換するための取り組みを行っています。
企業の中に流れる「定性的なブランド思想」と「ブランド力の客観性」の間に橋を架けることこそが、ROOTWITHの存在意義であり、使命でもあります。
正しい文脈のブランディングは、必ず素晴らしい結果をもたらす
長々と書きましたが、最後にお伝えしたいのは、「企業価値担保権」や「融資の獲得」というのは、ひとつのきっかけに過ぎないということです。
「銀行からお金を借りるため」「個人保証を外すため」だけにブランドや定性データを整えるのではありません。
たとえ当面の資金調達や融資が目的でなかったとしても、自社の「事業の記憶」をたどり、なぜ顧客に選ばれているのか、現場にどんなノウハウが宿っているのか、経営陣が何を大切にしてきたのかという「ブランドの本質」を正しく言語化し、客観的な文脈(構造)として社内外へ差し出すこと。
それ自体が、社員のエンゲージメントを高め、採用力を強化し、顧客との強い絆を作り、結果として企業の「稼ぐ力」そのものを底上げします。
正しい文脈でブランドを可視化する営みは、どのような経営環境であっても、必ず企業に素晴らしい結果をもたらすのです。
2026年、企業価値担保権という新しい仕組みをひとつの契機として、ぜひ貴社の中に眠る「本当の価値」を可視化する一歩を踏み出してみてください。
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