本記事では、老舗うなぎ店が不動産担保に依存せず、店舗立て替え資金の調達を支援された事例を解説します。事業性評価を活用した「有価証券担保ローン」の仕組みをはじめ、地域金融機関との連携による最適な財務戦略の設計、経営課題を根本から解決するための事例を紹介しています。
こんにちは。ブランドグロースパートナーROOTWITHの本田です。「ブランディング」という一見すると定性的な取り組みが、最終的に企業の本当の価値(企業価値)へ結びつくと信じ、多くのベンチャー・中小企業の支援を行ってきました。
2026年5月に施行された「事業性融資の推進等に関する法律」により、不動産担保や経営者保証に依存しない新たな融資手法「企業価値担保権」の本格運用が始まっています。スタートアップ向けの制度と見られがちだった本制度ですが、地域金融の現場で注目を集めているのが、地域で長年営業を続けてきた老舗企業での活用です。
2026年9月1日、東和銀行は東京・江東区の老舗焼肉店「肉の田じま」を運営する実栄商会に対し、企業価値担保権を活用した同行初となる融資を実行したと発表しました(担保設定日は8月28日)。
これまで、店舗の建て替えや大規模改装を行おうとしても、「不動産の担保評価額が足りない」「築年数が古く土地価値だけでは希望額に達しない」といった壁にぶつかり、断念せざるを得なかった老舗経営者は少なくありません。なぜ東和銀行は、不動産担保なしで老舗焼肉店の建て替え資金供給へと踏み切れたのでしょうか?
日本全国の老舗企業が直面する、3つの構造的課題
日本には創業数十年〜100年を超える素晴らしい老舗企業や地域に根ざした名店が数多く存在します。しかし、多くの老舗経営者や後継者が資金調達や事業継続において共通して直面しているのが、以下の3つの課題です。
① 店舗・設備の老朽化と「不動産担保不足」
創業から年月が経つにつれ、本店・店舗・工場の建物や設備は老朽化し、建て替えや耐震補強、大規模修繕が必要になります。しかし、建物の法定耐用年数はすでに切れており、銀行の担保査定では「評価額ほぼゼロ」とみなされます。土地の担保評価(掛目)だけでは十分な融資額に届かず、建て替えに必要な資金を調達できないというジレンマに陥ります。
② 事業承継と「経営者保証・過去の負債」
高齢化に伴う後継者への事業承継の際、先代から引き継いだ既存の借入金や経営者個人保証が重い負担となります。若い後継者が「自分の個人資産まで担保や保証に入れなければ店舗の建て替えができない」というプレッシャーから、事業承継そのものを躊躇してしまうケースが後を絶ちません。
のれん・技術・顧客基盤が「B/S(貸借対照表)では0円」として扱われる
老舗企業の最大の強みは、長年かけて築き上げた「地域の信頼」「根強いファン・顧客基盤」「熟練の職人技や独自の仕入れルート」「地域ブランド」です。しかし、従来の金融機関の信用格付や決算書審査では、これら目に見えない無形資産はバランスシート上に一切反映されず、過去の財務数値(売上や利益)だけで一律に審査されてしまうという構造的限界がありました。
金融庁指針と東和銀行×「肉の田じま」事例が示した老舗の逆転劇
こうした老舗企業の壁を打破するために作られたのが、企業価値担保権です。金融庁が公表している解説資料(概要チラシ・QA集)においても、実は制度の象徴的な活用シーンとして「地元で長年営業を続ける老舗料亭・店舗の建て替え」が明記されています。
金融庁の基本方針では、企業価値担保権という確かな法的基盤を設定することで、不動産という過去の有形資産や清算価値にとらわれず、長年の顧客基盤やビジネスプランといった定性・将来情報を合理的に考慮して信用リスクを評価できることが明確に定められています。
東和銀行が今回、江東区で長年愛される老舗焼肉店「肉の田じま」(実栄商会)の本店建て替え資金として融資を決断できた背景には、まさに同店が誇る3つの定性価値を正当に評価したからではないでしょうか。
- 世代を超えて愛される顧客基盤・リピート率
一時的な流行やバズではなく、地域住民や肉好きの顧客が日常的に通い続ける信頼関係があります。これは将来にわたって確実にキャッシュフローを生み出す強力な裏付けとなります。 - 仕入れルートや職人技の組織的な再現性
「創業者の勘」だけに頼らず、高品質な肉の仕入れルートや秘伝の味付け、店舗運営の知見が現場スタッフに継承・組織化されている点も大きいでしょう。 - 建て替え後の事業計画と、キャッシュフローの将来性
店舗を刷新することで顧客体験がさらに向上し、稼ぐ力(EBITDA)が高まるという合理的な将来見通し。不動産という「過去の資産」ではなく、「将来生み出す現金」が返済原資として評価されたといえます。
老舗が語るべきは「夢」ではなく「歴史と再現性」
ここで老舗経営者が注意すべきなのは、銀行に対する定性情報の伝え方です。ITスタートアップがVC(ベンチャーキャピタル)向けに行うような将来の市場拡大やビジョンを銀行に語っても、融資審査は通りません。
老舗企業が銀行(特に地域金融機関)に示すべき定性評価の軸は、以下の対比にあります。
- VCが求めるもの:未知の市場でのスケール感、爆発的な成長率(アップサイドの可能性)
- 銀行が求めるもの:地域で積み重ねてきた信頼の歴史、リピート顧客の存在、原材料高騰や景気変動(ダウンサイド)への対応力と返済の確実性
銀行の融資担当者や審査部が知りたいのは、「なぜこの店は長年潰れずに地域で選ばれ続けてきたのか(ルーツと文脈)」「なぜ新店舗にすれば顧客が引き続き足を運んでくれるのか(根拠)」という、泥臭い事実と組織としての再現性の証明です。
のれんと歴史をデータ化する
銀行員が営業店から本部審査部へ稟議書を提出する際、「この店は昔から有名だから」という感覚的な理由だけでは承認が下りません。2026年現在、企業価値担保権における定性評価の統一申請フォーマットが存在しないからこそ、自社の「のれんと歴史」を客観的なデータとして提示できる企業が圧倒的に優位に立ちます。
ROOTWITHでは、経営者の頭の中や現場に散在する定性情報をデータ化し、銀行員が稟議書の素材としてそのまま活用できるような「定性データ(ポータル)」の構築を推奨しています。
- 顧客との対話ログと定性評価
常連客の購買傾向、地域イベントでの反響、顧客からの生のフィードバックを数値・ログとして整理。 - 業務マニュアルとオペレーションの定性データ
仕入れ・調理・接客・人材育成など、現場で共有されている業務ノウハウの言語化。 - 経営者の意思決定ヒストリー
過去の危機(狂牛病問題、コロナ禍、原材料高騰など)をどのような判断と文脈で乗り越えてきたかという「経営対応力の記憶」。
これらがデータベースとして蓄積されていれば、金融機関は「この企業は経営実態を自ら把握し、時代が変わっても自力で事業を継続できる確かな組織基盤がある」と確信を持つことができます。
不動産はなくても、積み重ねた歴史は最大の担保になる
東和銀行による「肉の田じま」への企業価値担保権融資は、全国の老舗企業や店舗経営者にとって大きな希望となる歴史的な事例です。
「不動産担保がないから大規模な投資や建て替えをあきらめる」「決算書の数字が一時的に悪いから融資を断られる」。そんな時代は終わりを告げました。
経営者のみなさまが泥臭く積み重ねてきた歴史、大切にしてきた顧客との絆、そして現場のノウハウは、決算書には載らない「企業最大の資産」です。うわべのSNS集客や一時的な流行を求めるのではなく、自社の根幹にあるルーツと定性データに向き合ってみませんか?
ROOTWITHは、単なる評論家ではなく、企業の歴史に寄り添う立場として、貴社の「事業の記憶」を資産へ変えるお手伝いをしています。
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