ブランドグロースパートナーROOTWITHの本田です。「ブランディング」という一見すると定性的な取り組みが、最終的に企業の本当の価値(企業価値)へ結びつくと信じ、多くのベンチャー・中小企業の支援を行ってきました。
VC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家から出資を受ける際、経営者が語るビジョンやマーケットの将来性、また創業者の情熱といった定性的な要素が高く評価されることはよく知られています。
しかし、2026年に本格施行された「企業価値担保権(事業性融資推進法)」で、「VCに出したピッチ資料をそのまま銀行に持っていけば融資が引ける」と考えると落とし穴にはまります。
一般的に企業価値は数字で表されますが、企業価値担保権の時代において「銀行が求める定性データ」と「VCが求める定性データ」は別物です。
本記事では、VCと銀行の定性評価における決定的な違いと、銀行から確実に大型融資を引き出すための「データの残し方」について分かりやすく解説します。
なぜ「VC向け資料」では銀行の融資審査を通らないのか?
VCも銀行も、同じように「企業の定性的な強み」を見ようとします。しかし、両者のビジネスモデル(リスクとリターンの構造)が根本的に異なるため、求めるデータの質も対極になります。
- VC(株式投資)が見ているもの:上振れ(アプサイド)の可能性
10社に投資して9社が失敗しても、1社が100倍になれば大成功するのがVCの世界です。そのため、「成長性」「狂気的な情熱」「誰も思いつかないような非連続ストーリー」といった定性情報も評価されやすい構造になっています。 - 銀行(融資)が見ているもの:下振れ(ダウンサイド)のリスクと返済の確実性
銀行は数%の金利しか得られないため、100社に貸して1社でも倒産すれば利益が吹き飛びます。そのため、どれだけ夢が大きくても、「万が一のときでも返済キャッシュが途絶えないか」「事業に再現性があるか」を厳格に評価します。
つまり、銀行に対する定性アピールでは、ビジョンだけではなく事業の確実性や再現性(文脈)を証明する必要があるのです。
VCと銀行、「定性評価」の違い
銀行が企業価値担保権において重視する定性情報とは、具体的にどのようなものでしょうか。分かりやすく比較してみましょう。
| VC・エンジェル投資家 | 銀行(企業価値担保権) | |
| 定性評価の目的 | 主観的な「大化けの可能性」を見抜く | 客観的な「返済継続性・再現性」を証明する |
| 評価される定性データ | 経営者のビジョン、 市場の成長性、新規性 | 顧客基盤の安定性、業務ノウハウ、組織の再現性 |
| データの性質 | 語られる情熱や ストーリー | 構造化された定性情報と エビデンス |
銀行の融資審査において評価されるのは、「経営者個人のカリスマ性に依存せず、組織として事業が回っているか」「顧客との信頼関係やオペレーションがどのように構築されてきたか」という、積み上げられた実績と文脈です。
銀行が納得する「定性データの可視化」
では、銀行に「この事業は再現性があり、将来も確実にお金を生み出せる」と納得してもらうには、具体的にどのようなデータを提示すれば良いのでしょうか。
おすすめは、経営者の頭の中にしかない「事業の記憶(対話の文脈、経営戦略、現場のノウハウ)」を客観的かつリアルタイムにポータル化しておくことです。
銀行が審査部を通すために求めているのは、以下のような構造化されたデータです。
- 組織ノウハウの再現性
経営者が不在でも現場が回る業務フローやマニュアル、顧客対応の知見 - 顧客との契約の質
解約率の低さやリピート率の高さを裏付ける、顧客との対話や定性的なフィードバックのログ - 思考と対応の文脈
市場の変化や過去のトラブルに対して、経営陣がどのように意思決定を行い乗り越えてきたかの思考と行動の記憶
これらが「1回作って終わりの資料」ではなく、日々のミーティング等から自動的に転記・蓄積されているポータルとして存在していれば、銀行員はそのデータをそのまま審査部への稟議書(素材)として活用することができます。
ちなみに、2026年9月現在、企業価値担保権の申請フォーマットのようなものは統一されていません。
だからこそ、VC向けのような主観的なプレゼン資料ではなく、「客観的な事実と文脈(事業の記憶)がログとして残っているポータル」を提示できる企業が、圧倒的な先行利益を得られるのです。
企業価値担保権は、挑戦できる権利
2026年、企業価値担保権の本格施行により、過去の数字や不動産資産の有無にかかわらず、「事業そのものに価値があり、それを客観的に証明できる企業」に資金が集まる時代が本格的に到来しました。
これは、ブランディングという概念を扱ってきた私のような立場にとっても、積み重ねてきた努力や思想を正当に評価してもらえる、素晴らしい時代が来たと感じています。
- VC向けの「未来を語る資料」とは別に、銀行向けの「再現性を示すデータ」を整えたい
- 決算書に出てこない自社の無形資産や強みを、正当に銀行へアピールしたい
- 個人保証に頼らず、事業の将来性を担保にして成長資金を引き出したい
そう考える経営者・CFOの方は、まず第一歩として、自社の頭の中にある「事業の記憶」をデータとして構造化・可視化する準備を始めてみてはいかがでしょうか。
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